
特集 Xバンドレーダー|特集 集団的自衛権|特集 日米地位協定
今、近畿地方に初めて「米国領土、米軍基地を防衛するための」在日米軍基地が、地元住民の同意が不十分なまま建設されようとしている。
2013年2月末、政府は突如として、京都府京丹後市の経ヶ岬にある自衛隊の分屯地に、米軍専用の「Xバンドレーダー」を設置する計画を発表した。その後何度となく行われた住民説明会では、「安全、安心の確保」を求める地元住民の声に対し、京丹後市や防衛省は明確な回答を出せていない。そんななか、5月14日に米軍は、工事業者に着工を許可した。京都新聞の記事によると、京都府や京丹後市は「着工日を事前に伝えるよう」防衛省に申し入れていたが、連絡はなかったという。
※ 京都新聞 5月24日 京丹後Xバンドレーダー近く着工 地元連絡なし
そして5月26日、防衛省は米軍からの通告に則り、翌日27日に工事を着工することを発表した。
地元では住民の多くがいまだにこの米軍基地建設に反対している。「米軍基地建設を憂う宇川有志の会」は立地自治体と自衛隊の官舎を除く周辺12地域1000人中、過半数を超える561人の反対署名を集め、京丹後市長を京都府知事に提出した。しかし今回の頭越しの工事着工は、そうした地元住民の声を無視したかたちだ。そもそもこの米軍基地の問題点は何なのか。5月24日、IWJ記者が同会の代表である永井友昭氏に話を聞いた。
- 記事目次
- 「反対・賛成以前に一体どのような施設なのかが分からない」
- 「強力な電磁波による周辺への影響は」置き去りにされる多くの問題点
- 日米地位協定で特権的な身分を与えられた米軍関係者 ~拭えない事件・事故への不安
- 有事の際には真っ先に敵の攻撃対象に
- 「金」と「利権」で地域が分断
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「反対・賛成以前に一体どのような施設なのかが分からない」
自身も経ヶ岬周辺の「地元」に住む永井氏は、「地元からしてみれば、まさに降って湧いた話。地元で望んだ人は誰もいない。『白羽の矢が立った』と言った方が良いかもしれない」と当時を振り返り、反対する理由について、「反対・賛成以前に、あの基地が何なのかが分からない。そうした部分で情報公開と説明を求めている」と語った。
基地建設は昨年2月22日、訪米した安倍総理とオバマ大統領との会談で、「北朝鮮の核・ミサイル活動」を念頭に追加配備の話が進み、まさに自治体、地元住民の頭越しに決定された。そこからは、市長・知事と防衛省の間で計画は進み、防衛省が地権者を説得するなどして、同年12月までに用地を確保した。しかしまだ1名、基地建設に反対している地権者がいるという。
「強力な電磁波による周辺への影響は」置き去りにされる多くの問題点
この米軍基地の問題点とは何なのか。永井氏は、「まず第一に、誰も望んでいないこと」と語り、そのうえで大きく4つの問題点を指摘した。
まず一つは「周辺住民・環境への影響」だ。この最新式のレーダーは、強力な電磁波による環境への影響が懸念されている。2006年に米軍のXバンドレーダーが初めて配備された青森県の車力自衛隊分屯地は、大原野の中にあり、4キロメートル四方には誰も住んでいない。しかし今回の基地の場合は、一番近い集落で200メートルの距離にあり、50メートルも離れていない場所にはお寺の本堂がある。
そうした場所に作られようとしているにも関わらず、強力な電磁波がもたらす影響について、明確な情報公開がなされていないという。他にも、冷却に使う大量の水の影響など、レーダーそのものに関わる様々な問題点があると、永井氏は指摘した。
日米地位協定で特権的な身分を与えられた米軍関係者 ~拭えない事件・事故への不安
2つ目は、「160人の米軍関係者」の存在だ。20人の軍人と、技術者と警備員が70人ずつ計160人が配属されるが、「日米地位協定」によって彼らには特権的な身分が与えられる。
基地内は治外法権となり、沖縄の基地問題のように、様々な事件・事故への不安の声があがっている。沖縄では米軍関係者の起訴は全体のわずか13%だ。永井氏は、「公務中で起きた事件・事故は、裁判権は米軍にある。日本の警察で取り調べても、起訴は日本の検察ではなく、すべて米軍にいく。そしてだいたい温情判決になる」と語ったうえで、「そもそも起訴率13%という数字も、事件事故が発覚したもののうち、ということ。その裏には発覚していない事件・事故がたくさん埋もれている」と指摘。「結局被害者は泣き寝入りさせられる」と懸念を示した。
最初にXバンドレーダーが配備された青森県では、わずか1年間に、宿舎内での暴力や飲酒が原因で軍属7人が本国に強制帰国。その後も周辺の女性宅への不法侵入や酒気帯び運転など米軍関係者の逮捕事件が相次ぎ、2009年には自損死亡事故を起こし社会問題となっている。
こうした懸念を永井氏ら地元住民が訴えても、行政は「適切にやります」と繰り返すばかりで、実際に事故・事件が起きた時の対処や、それを未然に防ぐ対策などの具体的な取組みについては、一切答えないという。
有事の際には真っ先に敵の攻撃対象に
3つ目の問題点は、このレーダーが「敵の標的」になることだ。万が一米国(日本)と他国との間で何らかの有事が発生した場合、最新式のレーダーは敵にとっては真っ先に攻撃対象となる。永井氏は、「真っ先に敵から攻撃を受けた場合、そこに住む我々はどうなるのか」と、基地の危険性を訴えた。
「米国はこれまで、この基地は米国のための基地なんだ、とずっと言ってきた。『この基地が日本を守ることにもなるのか、これまで米軍の責任者でそう言った人間がいるのか』という質問に対して、防衛省は『答えられない。我々はそうだと理解している』としか答えない」。
永井氏はこう批判したうえで、「安倍政権が掲げる『集団的自衛権』『日米同盟の深化』の、まさに最前線。民間の土地を奪って、そこに治外法権の基地をつくって、日本という主権国家の主権を明け渡すということだ」と、政府の姿勢を痛烈に批判した。
「金」と「利権」で地域が分断
そして、永井氏は最後の問題点として「お金による地域の分断」を指摘した。年間3~4億円ともいわれる交付金や、その他様々なお金や利権によって、すでに立地自治体と周辺地域では大きな溝ができており、立地地域のなかでも地権者とそれ以外の間に色々な溝があり、地権者同士でも夫婦の中に溝ができつつあるという。
永井氏は、「そういう問題が色々とリンクしながら、わずか1500人に全部降ってくる。それでも受け入れるとするならば、何を我々は被らなければならないのかをしっかり見据えて、『それでも腹を括って受け入れるのか』という議論をしなければならない」と訴えた。
(取材・聞き手:柏原資亮、記事:佐々木隼也)
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