加速する少子高齢化、拡大する経済格差、進まない労働者の待遇改善――。
労働者の人権を守る砦のはずの労働法制の空洞化の改悪と、事実上の空洞化によって、日本の労働者の多くが、過剰な長時間労働を強いられている。
この日本の悲惨な労働環境を象徴する事件の一つが、大手広告代理店・電通の新入社員・高橋まつりさんの過労自殺だ。高橋さんは生前、月に105時間以上もの時間外労働を強いられていた上に、上司から「君の残業時間の20時間は会社にとって無駄」などという暴言を受けていたという。
こうした長時間労働と日常的なパワハラにより、2015年12月25日、高橋さんは社員寮から飛び降り自殺。高橋さんの死は2016年9月30日に過労死と認定され、電通に対する非難の声が急速に高まった。
また、東京電力社員として福島第一原発事故の賠償業務に携わっていた一井唯史氏が、長時間労働とストレスによりうつ病を発症したとして労災認定を申し立て、2016年10月31日、実名で記者会見を行った。一井氏は2016年11月5日、休職期間が切れたとして解雇された。
岩上安身はこの件に関し、一井氏に直接インタビューを行っている。インタビューでは、東電の無理な人員配置による過酷な労務管理により、一井氏がうつ状態にまで追い込まれていく過程や、東電の「労災隠し」、さらには日本社会に蔓延する深刻な長時間労働の現状にも話が及んだ。
- 過重労働でうつ状態に追い込まれたあげくに解職に――被災者も社員も犠牲にする東電の悪質すぎる内部実態! 東電社員として声をあげた一井唯史氏に岩上安身がインタビュー<前編> 2016.11.28
- 「東京五輪が誘致できなかったら、東京電力に賠償請求する」――東京都が東電を脅迫!? 衝撃の内部告発! 東電社員として声をあげた一井唯史氏に岩上安身がインタビュー<後編> 2016.12.1
長時間労働による労災事例は後を絶たない。三菱電機の31歳の男性は月160時間にも及ぶ残業を強いられた上、パワハラを受けて適応障害を発症、2016年11月24日に過労による労災と認定された。さらに、2016年4月には関西電力の40代の男性社員が自殺。男性は1か月に200時間もの残業をしていたとされ、2016年10月20日に過労死認定された。
こうした日本の労働環境の酷さは、”KAROSHI”(過労死)という言葉とともに、世界に広く知れ渡っている。
労働者の人権を無視し、一人の人間を死に追い込む日本の産業界で、犠牲にされているのは日本人だけではない。日本人よりもずっと弱い立場に立たされ、虐げと搾取に耐えているのが、外国人技能実習生(※)だ。
中国やベトナム、カンボジアなどの労働者は、外国人技能実習制度により来日し、日本人の若者は決して働かないような低賃金で過酷な労働を強いられている。言葉の壁により意思疎通がうまくいかない実習生を見下し、日本の法体系に対する知識不足につけ込み、搾取する悪質な事業者もいる。中には、殴る蹴るなどの暴行を働く者もいる――。
※外国人技能実習生:「理念上はあくまでも教育を受けるために来日しているが、事実上労働関係法令が適用される労働者」という特殊な資格を指す。このため、建前上は教育を受ける立場でありながら、実態は「単純労働者」として扱われることが少なくない。現在、大企業から中小企業、農家まで幅広く受け入れをしている。
IWJは2017年1月25日、外国人技能実習生の労働問題に取り組んでいる全統一労働組合事務局長の佐々木史朗氏と、実際に都内の建設会社で配管工の技能実習をして劣悪な待遇に置かれ、現在はうつ病のため休職中のカンボジア人実習生の男性にインタビューを行った。